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2026年5月31日日曜日

音楽 : 小杉武久 関連

 

万物流転の流れをキャッチするアーティスト

text:湯浅学
*musée 1999年1月20日(#17)掲載

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水や空気、あるいは人の世と自分との関わりにおける“流れ”は強く意識せずともふと感得できることがある。風や波、あるいは人との出会いや別れにおいて。そうでなくとも隙間風に揺れる香の煙のたゆたいや晩秋の枯葉の落下に気づくことや人づてに耳に入って来た噂話によって、この世には様々な“流れ”があり、その“流れ”がいくつもの創造物を生んでいるものだ、ときづかされることは少なくない。“流れ”をコミュニケーションと解することも可能であろうし、インスピレーションの源(のひとつ)ととらえることもできるだろう。音楽はそうしたこの世の種々の“流れ”の中における、演者から聴取者への一方通行の交流手段ではない。

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 小杉武久の活動、数々の作品は、音楽がこの世の“流れ”との親密な関係や気楽な交渉あるいは緊迫した接近によって生まれることをあからさまに伝えて来た。まるで小杉武久という存在が空気中の“流れ”に溶解してしまったように感じられることもあれば、自分自身の中の“流れ”と自らを取り巻く因果の“流れ”とが交戦しているような放電を見せるときもある。虚空に交差する空気中の粒子の流れを捕獲しそれを体内で飼育していると思えることさえある。その姿は厳格さと無邪気さが合体した類い希なものである。

 行為そのものが演奏となる作品、その行為のための指示を作曲と呼ぶべき作品、即興演奏の中で試みたアクションを総合的に記録した作品(音のアクションとヴィジュアルのアクションとを多面的に考察したイヴェント作品)を小杉は60年代初めから発表してきた。

 形となって完結してしまってた“作品”ではなく、演奏あるいは行動、動作という行為を発生させ(接触し)作用を及ぼした環境や状況におけるそれぞれ(行為者、参加者)の体験とその環境や状況との関係そのものも組み込んでひとつの“作品”とはつまり、小杉にとっては終了しない営みというべきかもしれない。

 シュールレアリズムへの興味とラジオ制作の喜びとが平行して高まっていった中学生時代、(いわゆる)現代音楽への関心も生まれていったという。1950年代前半のことである。音楽的な興味をとりわけ学究的に深めていったわけではない、と小杉はいう。

 97年にCD化された『グループ・音楽』は、小杉が東京芸術大学音楽部楽理科在学中に発足させた即興演奏のグループだ。グループ・音楽の即興演奏はジャズにおける即興のように楽曲という規定の中でそれぞれの技巧や諧謔精神を競い合うものではない。当時小杉はヨーロッパ的なコンポジション(図形化された楽譜ももちろん含めて)に関わる音楽そのものを否定していた。グループ・音楽について「オートマチックで完全に肉体を離れさせるような演奏で、エゴを越えようと考えていた。即興演奏というものに、ひとつの超越といった意味あいを求めていた」とかつて小杉は語っている。

 音楽を他の行為、たとえば歩きまわったりあくびをしたり、といった日常の行動と差別化せずに、人間という存在における営みのひとつとして並列化して位置付ける。このことは小杉武久の“作品”“演奏”に一環した志向である。そこではたとえばひとつの“小杉流”といえそうな響きや行動にも規定されまいとする厳格さが貫かれている。自らが強欲に音楽(あるいは“作品”)を作り出し、構築してゆこうという姿勢など小杉武久にはまったくみられない。あくまでも音を発する上で、発した音に責任を保つ“作品”と自己とその環境との関係(“流れ”)に厳密であろうとする。“作品”の中にいる小杉武久は誰をも呼舞しないかわりに、その“作品”に接している人と物すべてと交感しようとしている。聴取し凝視している人だけではない。たまたま通りがかった人やうたた寝してしまった人に対してもそれは同様である。

 世界中の多くの人々がCD化を求めている小杉のアルバム『キャッチ・ウエーヴ』は、天井から紐でつるされた発信機が扇風機からの風に揺れて生まれる、受信機との距離や方向の変化で創り出される音と小杉の声やヴァイオリンのとの相互のフィードバックの記録である。空間の“波”ととらえられること、つまり“流れ”と交互する試みと言いかえられる。小杉にとっては発信機を揺らす風は、エレクトロニクス技術や楽器との『キャッチ・ウェーヴ』を再現しても同様のサウンドが常に得られるわけではない。

「最近の扇風機は違うんですかね?いい風がでないんですよ」と先日小杉は語っていた。

 98年10〜11月に行われたマース・カニングハム舞踊団公演の「シナリオ」では小杉作品《WAVE CODE A-Z》が演奏された。これは“耳には聴こえない非常に低い周波数の電子的な波を音に作用させ、音の波動を作り出す。このゆっくりとした電子の波にAからZまでのアルファベットで始まる26の単語の意味(指示)に基づいた、声、ヴァイオリン、発振器の演奏を組み入れると、変調され、空間に刻々と変化する音のスペクトルを生み出す”(公演パンフレットに掲載の小杉自身による解説)。このときの小杉の“演奏”に驚かされたという人は多い。それは“小杉武久という存在”を始めて目の当たりにした者たちだけではない。“小杉武久の作品”あるいはタージ・マハル旅行団の演奏に聴き親しんでいた者たちの中にも、今改めて“小杉”と向き合うことの必要性を感じとっている者が少なくないのだ。

 それは音楽の流行の様相が(世界的に)変化してきたからではない。現在巷に流されたり市場で取り引きされている多くの音楽に欠落感や喪失感を感じることが少なくないから、という者もいるだろう。しかしそれはおそらく我々が、小杉武久の“作品”に貫かれた人間の精神(感覚と言い換えてもよい)回路に対する開かれた姿勢に対して、“本能的に”安堵と高揚を覚えてしまうからなのだ。どこの“体系”にも属さない小杉武久という“存在”の“流れ”を我々はあまりにもとらえなさすぎたのだ。紆余曲折はあったが、小杉武久は演奏し続けていた。つまり“作品”を作り続けて来た。小杉自身が、自分の“作品”の音盤化に関心を抱くことがほとんどなかったせいもあろう。記録や複製化が難しい“作品”も少なくなだろう。小杉武久はともすればふわふわと空間の“流れ”に漂ってしまうような趣きさえ持っている。音を“流れ”の中から釣り上げる名人だからだろうか。「昔からゆったりとして、ダルいやつが好きなんですよ」と言って小杉武久は笑った。たとえば、シャンソン、タンゴ、ジャズ、インド音楽、能が小杉の中には入ってもいる。「音楽は空気の振動だから、瞬間瞬間に消えていく。そうした定義できないものだからこそ、いいのだ」とも小杉は語っていた。だからこそ我々は小杉武久を“発見”しなければならないし、“キャッチ”しなければならない。受信した、と思った次の瞬間には小杉武久はそこにはいないかもしれないが。


■プロフィール
1938年東京生まれ。東京芸術大学楽理科卒。芸大時代にマルチ・インストゥルメンタルによる即興演奏を始める。60年日本で最初に集団即興演奏を行う「グループ・音楽」を共同結成。

音楽 : 小杉武久 関連

 ARCHIVES

小杉武久 「音の世界 新しい夏 1996」

小杉 武久

10月14日(金)〜 11月5日(土) 営業:木、金、土 12:00〜18:00

10月14日(金)〜 11月5日(土) 営業:木、金、土 12:00〜18:00
今年の追悼展は、1996年芦屋市立美術博物館で行われた「小杉武久 音の世界 新しい夏」展の記録写真(高嶋清俊)、映像(藤本由紀夫)と、同展の為のドローイングなどを展示します。

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小杉武久の2022

小杉武久は亡くなっても、小杉武久の音楽はこれからも生き続ける。
小杉武久を演奏するとは?

小杉は作品のインストラクションや、使用機材のダイアグラム等のメモを多く残している。
非常にシンプルな言葉やドローイングは、シンプル故に多くの謎を含んでいる。

音楽は演奏という行為によって、絶えず新しい発見が行われる。
小杉武久の音楽であったものが、これからは我々のものとなって、新しい小杉を発見する時代になった。

藤本由紀夫
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関連企画
"小杉武久の2022" EYE, 和泉希洋志、高橋悠治 他、10月15日(土)15:30開演(15:15開場) ¥ 4,000-(ライブ&ドリンク)ホール・エッグファーム 
詳しくは、hall-eggfarm.com, Facebook : カフェ・ルコック、Twitter : FALL EGG FARM, Instagram : hall.eggfarm


ふじいせいいち《Body Wave》

1971年/40分/HD(16mmフィルムをデジタル化)/音楽:タージ・マハル旅行団 デジタル化協力:CCJ (c)ふじいせいいち

小杉武久《TM》

1974年/3分/HD(16mmフィルムをデジタル化)/サイレント

デジタル化協力:CCJ (c)HEAR


    2026年5月26日火曜日

    音楽 : 原始共同体 – Primitive Community



    収録曲

    1禁じられた儀式10:16
    2悪魔の涙7:58
    3ハリクリシュナ8:21
    4サバンナ6:20
    5フライング2:08
    6ブラック・ナルシス3:00

    ノート

    Reissue of the 1970 LP on EMI (TP-8066).

    Comes in mini LP replica with OBI & Japanese insert.

    バーコードとその他の識別子

    • バーコード: 4 988044 976696
    • Matrix / Runout: DTHK-001 MT 961
    • マスタリングSIDコード: IFPI L159
    • モルドSIDコード: IFPI 2800
    • 権利協会: JASRAC
    • ASIN: B005KO61YA

    他のバージョン(5件)

    全て見る
    タイトル (フォーマット)レーベルカタログ #
    原始共同体 (LP, Album, Promo, Red)Toshiba RecordsTP-8066Japan1971
    原始共同体 (LP, Album, Red)Toshiba RecordsTP-8066Japan1971
    原始共同体 (LP, Album, Test Pressing, )Toshiba RecordsTP-8066Japan1971
    Primitive Community (LP, Album, Reissue, Red, 180g)Think! RecordsDTHK-015Japan2013
    Primitive Community (LP, Album, Reissue, Remastered, Red)Universal Music GroupLighthouse MusicUPJY-9263Japan2023

    2026年5月15日金曜日

    書籍 : 吉田一穂ー白鳥





    書籍 : 吉田一穂ー白鳥(限定50部本)





    定本 白鳥 吉田一穂詩集【山本六三オリジナル銅版画2葉・内1葉サイン入/Signed】

    吉田一穂, 版画: 山本六三

    南柯書局

    1976年

    1冊 サイン入 特装版限定50部 山本六三オリジナル銅版画2葉・内1葉サイン入, ハードカバー, 革装, 天金, 二重函

    2026年5月6日水曜日

    書籍 : エドガア・アラン・ポオ著、エドアァル・マネ挿画、日夏耿之介訳-大鴉





    • エドガア・アラン・ポオ著、エドアァル・マネ挿画、日夏耿之介訳
    • 出版社野田書房
    • 刊行年1935.3
    • ページ数27p
    • サイズ25.5×33cm
    • 解説限定130部内第56番本、「大鴉」の透かし文字入総鳥ノ子紙未綴装(挟み表紙)、タトウ付、輸送箱付、輸送箱

    2026年5月5日火曜日

    書籍 : 白石かずこ『四つの窓』






    大家利夫のルリユール限定本 | 白石かずこ『四つの窓』
    著者
    発行年
    昭和63年 限定58部
    出版社
    指月社
    状態
    大家利夫による製本 / スリップケース入り(紙製・開口部革縁取り) / 本体総革装 / 白石かずこ署名入り 
    サイズ
    函サイズ:約198×170×22mm